Research

当研究室では
    超好熱アーキアの酵素と代謝
    生分解性ポリマーの微生物合成
に関する研究を行っています。


超好熱アーキアの酵素と代謝

90℃以上の高温環境で生育する超好熱菌を対象として、その特異な機構や代謝の解明、超好熱菌が産生する耐熱性タンパク質の機能解析を遺伝子工学・タンパク質工学・ゲノム工学の手法を用いて進めています。

超好熱アーキア Thermococcus kodakarensis KOD1

近代微生物学は栄養源豊富な培地に微生物を接種し、常温、常圧、中性pHの穏和な条件で増殖する微生物を対象として発展してきました。しかし近年では、これまで生命が存在しないとされていた温泉や火山、深海底や深度地下、低温の極地、塩湖などの極端な環境にも多様な微生物からなる生命圏が存在していることが明らかになってきました。このような高温、低温、高塩濃度、強アルカリ性・強酸性といった環境を好んで生育する微生物が極限環境微生物です。これらが産生する極限酵素は特殊な条件下でも安定なために産業用酵素として重要性が高くなっています。近年では極限環境微生物の環境適応機構の解明や有用酵素遺伝子の発見を目的としたゲノム解析も多く実施されています。

極限環境微生物の中でも、90℃以上で生育可能な微生物を超好熱菌と称します。90℃以上というのは鶏卵であればとっくにゆで卵となっている温度ですが、超好熱菌が産生する酵素タンパク質はこのような高温においても変性することなく機能できます。熱安定性の高い酵素は広い温度範囲で長期間使用できることから、様々な新しい技術や産業プロセスへの利用が期待されています。また超好熱菌は16SrRNA塩基配列を基にした進化系統樹において例外なく根に近い系統枝を占めます。このことは現存する生命体の中でかつて存在した全生物共通祖先細胞に最も近いのは超好熱菌であることを示唆しており、その特異な代謝、遺伝情報処理、生命維持機構は生命の進化という観点からも興味深い生物群です。

我々の研究グループでは、鹿児島県トカラ列島小宝島の硫気孔から単離された生育温度 60~100℃の超好熱菌Thermococcus kodakarensisについて研究を進め、これまでに数多くの耐熱性酵素の解析を行ってきました。この超好熱菌が有するDNAポリメラーゼはヌクレオチド取り込みの正確性に優れており、遺伝子を増幅するPCR用酵素として市販されています。また糖質加工に有用な耐熱性アミラーゼや耐熱性キチナーゼの遺伝子などを見いだしています。さらに我々はT. kodakarensisの2.09 Mbpからなるゲノムを解明し、2,306 個の遺伝子を同定しました。その中には多数の興味深い耐熱性酵素遺伝子や新規遺伝子が含まれていました。また超好熱菌としては世界で初めての 遺伝子破壊法を確立し、超好熱菌における細胞内遺伝子機能の解析を可能としました。本研究室では超好熱性という興味深い特性を実現している機構や代謝の解明や有用耐熱性酵素の発見と利用に取り組んでいます。


生分解性ポリマーの微生物合成

生分解性プラスチックとは

使用中は通常のプラスチックと同じように使えて、使用後は自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解されて自然に還るプラスチックです。

  • 自然界の微生物によって、最終的には水と二酸化炭素に分解されます。
  • 生ごみから有機肥料を造る装置(コンポスト化装置)の中に投入した場合には、早く分解します。
  • 焼却した場合にも熱量が低いため焼却炉を傷つけることがなく、クリーンで大気をよごしません。
  • 自然環境中で使用される製品や、使用後のリサイクルが難しい分野に用いられることが期待されています。

微生物がつくるバイオプラスチック

微生物の中には、エネルギー貯蔵物質としてヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとするポリエステル(ポリヒドロキシアルカン酸、PHA)を合成・蓄積するものが数多く知られています。この微生物ポリエステルは、糖・植物油等の再生可能炭素資源(バイオマス)から合成される生分解性プラスチックとして注目されています。我々の研究グループでは新規のポリエステル生産菌を探索し、植物油から3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシヘキサン酸からなる新規共重合ポリエステル[P(3HB-co-3HHx)]を生産するAeromonas caviae FA440株を土壌より単離しました。またこの P(3HB-co-3HHx) 共重合体が従来の微生物ポリエステルよりも、しなやかな素材であることを明らかにしました。

バイオポリマー生合成の遺伝子工学

A. caviae におけるポリエステル生合成遺伝子をクローニングし、脂肪酸β-酸化を経由する共重合ポリエステル生合成経路を明らかにしました。また本菌由来のポリエステル合成酵素(重合酵素)遺伝子を導入した組換えRalstonia eutropha により、脂肪酸や植物油を原料としてP(3HB-co-3HHx)共重合ポリエステルを効率よく蓄積させること(乾燥菌体重量あたり80wt%以上)に成功しています。さらに人為的にデザインした代謝経路により糖質を原料としてもP(3HB-co-3HHx) 共重合ポリエステルの合成が可能であることを示しました。今後はゲノム情報を見すえた改変によって高物性バイオポリエステルを高効率で生産可能な微生物を育種し、生分解性プラスチックの実用化、さらには環境低負荷型プラスチック産業の確立に貢献することを目指します。